コーヒーを数値化する事の重要性。アタゴ(ATAGO)ポケットコーヒー濃度計を使おう[レビュー]

「自分が淹れたコーヒーって数値で表せるのかな?」

 

もしあなたが店舗でバリスタとしてコーヒーを淹れていたり、自宅で毎日コーヒーを淹れて趣味として楽しんでいるコーヒーギークであれば一度は考えたことがあるのではないだろうか。

 

もしコーヒーを数値で出し定量化することができれば、人間の「味覚」という主観だけに頼らず再現性の高いコーヒーをロジカルに作り出すことができる。特に、毎日安定して同じ味のコーヒーを提供しなければならないコーヒーショップやカフェにとっては「味の再現性」というのは最重要課題になってくる。

 

これを実現してくれるのが1940年の設立当初から屈折計を手掛け、屈折計の国内シェア80%、海外シェア30%の実績を誇るATAGO(アタゴ)社の「ポケットコーヒー濃度計 PAL-COFFEE (BX/TDS)」である。

 

 

 この記事がおすすめな人

■ バリスタとしてコーヒーを淹れている人
■ 店舗のコーヒーのクオリティを維持したい人
■ コーヒーを勘ではなくロジカルに抽出したい人
■ コーヒーの大会に出たい人

■ お家コーヒーを極めたい人

 
 

 

 

濃度計を購入したきっかけ

バリスタになりたての頃、閉店後の店で遅くまでコーヒー抽出の練習をしていた。何度やってもうまくいかず、美味しいコーヒーが抽出できない。それでも毎日練習していくうちに、ある日ついに自分で納得のいく抽出ができた。

 

フレーバーはしっかり感じられ、濃度感も良い。「これでOKがもらえる!」と自信を持って熟練の先輩バリスタにテイスティングしてもらうと一喝。「薄い。」の一言だった。

 

「まさかそんなはずは・・。」と思い、他の複数の人に飲んでもらっても同じ回答であった。その時自分のコーヒーに対する味覚の感覚はまだプロの味覚とはズレているのだと初めて知った。

 

幼少期から今までの食体験というのは人それぞれ違う道を辿っている。人によって薄い、濃いに対する感覚も当然違うだろう。お客様に提供する以上、自分の主観だけでコーヒーの味を判断するのはプロとして危険であると判断し、コーヒーという液体を客観的な数値で測る必要性を知り濃度計を購入するに至ったのである。








濃度計があれば何ができる?

濃度計を使えば、コーヒーのTDSを計測することができる。TDSはTotal Dissolved Solidの略で日本語にすると総溶解固形分


コーヒーの成分は水に溶ける可溶性固形分と水に溶けないセルロースなどの不溶性固形分で構成されているのだが、TDSとはこの可溶性固形分がどのくらいコーヒーの液体の中に溶けているかという値(%)である。TDS=濃度と思ってもらって問題ない。

 

 




例えば上の写真のように液晶にTDS1.41%と表示されていればそのコーヒーのTDSは1.41%ということになる。つまり1.41%がコーヒーの成分で、残りの98.59%は水であるということである。とてもシンプル。


TDS値の上に表示されているBrix(%)は水溶液100gに含まれるショ糖の重量を百分率(%)で表した値。ショ糖液を測ればその濃度は実際のBrix値と合致するがコーヒーのようなショ糖以外の他の物質を主体とした水溶液の場合は換算値が必要となってくる。


このATAGOポケット濃度計はBrix値に0.79を掛けたものがTDS値として自動換算される。なのでコーヒーの濃度を知る場合は基本的にはBrix値ではなくTDSの方だけを見れば問題ない。

 

「TDSについてもっと詳しく知りたい。」という方は以下の記事でイラスト付きで分かりやすく解説しているので参考にしてもらいたい。

 

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コーヒーの濃度は高ければ高いほどよいの?

濃度計を使えばTDS値を測れることが分かった。そこで疑問に思うことがあるかもしれない。

「TDS値は高ければ高いほどいいのか?」

つまり「コーヒーの濃度は高ければ高いほどコーヒーの美味しさに直結するのか?」という疑問。たしかに濃度が高いコーヒーの方が濃厚でよりリッチな味を想像してしまう。


しかしそうではない。例えば塩分濃度の高いラーメンはしょっぱすぎて食べられないのと同じで、ラーメンのスープには適正な塩分濃度というのがあるはず。


コーヒーも同じで濃度が高すぎると口にした時に心地よく感じることができない。人がコーヒーを飲んだときに心地よいと感じる濃度をSCA(スペシャルティコーヒーアソシエーション)が適正濃度として数値で提示しているので参考にしてほしい。




■ SCAが定める適正抽出された場合のTDS値 (フィルターコーヒーの場合)

TDS  1.15〜1.35%

 


ちなみにエスプレッソはドリップコーヒーの約10倍ほどの濃度

 








濃度計を日常的に使うことのメリット

濃度計を日常的に使う事でコーヒーに対する解像度は一気に上がり、今まで平面だったものが立体的に見えてくる。今までの自分自身の経験上、濃度計を使用することで得られた具体的なメリットは以下の3つ



1. 未抽出なのか過抽出なのかが客観的に分かる。

2. バリスタ間で店の味を統一することができる。

3. 各コーヒーの最適な濃度や収率を数値化しデータとして蓄積できる。
 





 

1. 未抽出なのか過抽出なのかが客観的に分かる

コーヒーリテラシー コーヒーの未抽出と過抽出を理解しよう

抽出したコーヒーが未抽出なのか過抽出なのか、経験があれば飲んだだけで分かるが慣れていなければ何かに頼るしかない。味が取れる人と一緒に飲むか、もしくはツールに頼るか。いつも味の取れる人がそばにいるわけではないので濃度計を使用するのが現実的だろう。


未抽出なのか過抽出なのかは濃度ではなく収率で判断する。その収率を知るためにはTDSを知る必要が出てくるので濃度計を使わざるを得ない。


ちなみに収率とはコーヒー豆からどのくらいの成分を引き出すことができたかという値(%)。収率が低過ぎれば未抽出。もっとコーヒーの成分を出してもよい。収率が高過ぎれば過抽出。コーヒーの成分を出しすぎている。


どのくらいの収率の値であれば適正抽出なのかはSCA(スペシャルティコーヒーアソシエーション)が適正収率の範囲として提示している数字があるのでそちらを参考にして欲しい。



■ SCAが定める適正抽出された場合の収率 (フィルターコーヒー)

収率: 18〜22%



18%〜22%であれば適正抽出。18%以下であれば未抽出で酸味傾向の味に。22%以上であれば過抽出で渋みや苦味が強い味になる。良い成分を出しつつ、悪い成分を出さない適正な範囲が18%〜22%であるということである。


ただこの値はあくまでも目安であって、焙煎度やコーヒーの品質、またそのコーヒーのエイジング(焙煎されてからの経過日数)などにもよって最適な収率は変わってくるのでその点は頭に入れておくとよい。

 

その収率の求め方は以下となる。



収率=TDS×出来上がりのコーヒーの量(g)÷使用したコーヒー豆の量(g)



あなたの淹れたコーヒーが未抽出なのか、適正抽出なのか、はたまた過抽出なのかを客観的に知るとよりコーヒーへの理解が深まるだろう。

 

収率に関しては以下の記事でも分かりやすく説明しているので参考までに。

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TDSと収率を利用したエスプレッソの調整方法は以下の記事から。

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未抽出・過抽出の踏み込んだ記事は以下から。

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2. バリスタ間で店の味を統一することができる

このTDS計が最も効力を発揮するのがバリスタ間での味の統一だ。


様々な味覚のバックグラウンドを持つお客様が入れ替わり立ち替わり入店するコーヒーショップでは、どの人が飲んでも美味しいと思える範囲内のコーヒーを提供する必要がある。


その味作りを最初にしっかりとできたところで、各バリスタによる抽出に偏りがあっては全てが台無しになってしまう。ただ、客観的なデータがあればバリスタ間でのキャリブレーションがし易い。


店の味を擦り合わせする際は、濃度計が出した客観的な数字をバリスタ間でシェアし、また同時にその味を各バリスタの舌で覚えること。そうすることでしっかりと店の味を統一することができる。数字だけ、味覚だけではなく両方使うのがポイントである。


もし店の味と大きく外れてしまったコーヒーを一度でも提供した場合、常連のお客様はその店に不信感を抱くこともあるかもしれないが、その時になぜダメだったのかを客観的に数値で判断できるツールがあれば、すぐに修正が可能である。







 

3. 各コーヒーの最適な濃度や収率を数値化しデータとして蓄積できる

自宅でコーヒーを楽しむだけなら必要ないが、プロのバリスタであるならばそれぞれのコーヒーに合わせてメッシュ(挽き目)やブリューレシオ(湯とコーヒー豆の比率)などのパラメータを変えて微調整し、各コーヒーのポテンシャルを引き出すべきだと思っている。



「このコーヒーは濃度感を抑えてフレーバーを出した方がいいな」

「このコーヒーなら濃度をやや上げた方が個性が際立つな」

「このコーヒーは抽出時間を伸ばした方が甘さがより出るな」



微調整し味がばっちり決まったらTDS値をメモし、収率を算出してデータとして蓄積しておく。そのデータが溜まっていけば産地、焙煎度、品種、生産処理方法に対してのどのような抽出アプローチをしていけばよいかの傾向が段々と見えてくる。


そうすれば初めてのコーヒー豆を抽出する際でも「エチオピアのウォッシュトプロセスの浅煎りなのでこのこのくらいに濃度と収率が美味しくなりそうだな」という風に、過去データのTDSと収率から逆算して、レシピを構築することが可能になる。

 

収率=コーヒー豆からどれくらいの成分を引き出すことができたかの値(%)









濃度計愛用者が陥りがちなこと

よくありがちなパターンとしてTDSをSCAが勧める1.15%〜1.35%に絶対に合わせようと抽出する人がいる。


極端な例であれば1.3%が絶対に美味しいのでどんなコーヒーでもTDS1.3%に持っていこうとする人がいる。しかし、このように数字だけを追い求めた味作りは全くもっておすすめしない


数値で客観的なデータを取得することはもちろん大切だが、コーヒーは人の舌で味わうものである以上、必ずテイスティングをして「飲んで美味しい。結果このコーヒーの適正なTDSは1.3%だった。」という使い方をするとより有効に濃度計を活用できるだろう。








ATAGO ポケット濃度計を実際に使ってみよう

しっかりした箱の中に入っている。白いデザインはシンプルで飽きがこない。







グッドデザイン賞にも選出されている。








アタゴポケットコーヒー濃度計がお目見え。








「ポケット濃度計」なだけあってコンパクトで軽い。








水で0合わせをする

ゼロ合わせする水はコーヒーを抽出する水と同じ水を使う。








スタートボタンを押す。もし0表示にならなかったら、右の「ZERO」ボタンを押そう。








0合わせ完了。この時一番上の温度も覚えておくこと。19.9℃と表示されている。








抽出したコーヒーをガラス面にセット

スポイトで吸う前に、抽出したコーヒーの検体はしっかりスプーンで混ぜて濃度を均一にしておくこと。そうする事でより正確な濃度を計測することができる。








スポイトでゆっくりと的確に滴下しよう。








乗せる液体の量の目安は上部に2mmほど間隔が残るくらいで。








注意点

乗せる時はスポイトが一番おすすめ。ステンレスのスプーンなどを使うとガラス面を傷つけてしまうリスクがあるのと、ガラス面に的確に乗せにくい。スポイトは安全且つ、狙った量の液体をガラス面にピンポイントで乗せることができる。









 

計測

光の屈折率を利用して液体の濃度が測定される。このコーヒーのTDSは1.32%だということが表示から分かる。検体の温度は0合わせした時の水の温度と近い方が計測値が安定するので、検体が熱い状態であればガラス面に乗せた後温度が下がるまで待とう。


終わった後は液体を布かティッシュで取り除き、ガラス面をアルコールスプレーなどを使い綺麗に拭き取ればOK。


使い方も掃除もとてもシンプル。やはり毎日使うものなので取り扱いが簡単なものが一番いい。








疑問に答えるQ & A

持ち運びはできる?

「ポケットコーヒー濃度計」という名前の通り非常にコンパクトでかさばらないサイズ。ATAGO社の他にVST社という会社が出しているTDS計も有名だが、そちらと比べるとATAGOの方がひと周り小さいのでより携帯するのに優れている。








手にすっぽりと収まるサイズ感もよい。








重さは単4電池を2本入れた状態で約125g。小玉のりんご半分くらいの重さなのでとても軽い。








前述した通り、充電式ではなく乾電池駆動。後ろに単4電池が2本入る構造になっている。








計測スピードは遅い?

VST社のものと比べるとATAGO社のものは計測スピードでやや劣る。VST社の方は計測をスタートすると5秒以内で計測が完了する。対してATAGO社の方はどうだろうか。実際に計ってみたら17秒であった。(写真上)


基本的に毎回20秒以内には計測してくれる。遅すぎてストレスが溜まるという程のものではなく、使っていて不便に感じたことは特にない。VST社も使ったことはあるが、確かに早い。ATAGOが遅いのではなく、VST社の計測スピードが早すぎると言ってもいいだろう。








最後に

カフェでコーヒーをなんとなく淹れて、エスプレッソマシンを使ってラテアートをやっていれば「自分はバリスタである」と簡単に名乗ることはできるが、それだけでは十分ではない。海外のトップバリスタはコーヒーを科学として考えているし、抽出も焙煎もよりロジカルに考えている。


コーヒーを主観的な味覚での官能評価に加え、TDSや収率などの客観的な数値を利用することでコーヒーをより立体的に理解でき、美味しいコーヒーを高い再現性で作ることが容易になる。自分をバリスタと名乗るのはそれを理解してからだろう。