エスプレッソの調整方法。世界の一流バリスタから学ぶレシピ作りのコツ

エスプレッソの味でその店の評価を決める人は実は意外と多い。それは「一杯のエスプレッソにバリスタの知識と技術が集約されている」と知っているからだ。いわば寿司屋の卵焼きのような位置づけ。

コーヒー豆の素材自体のクオリティが高かったとしても、バリスタがエスプレッソで台無しにしてしまった場合、お客さんは二度とあなたのお店に来なくなるだろう。

そんなバリスタの技術が具現化した飲み物であるエスプレッソを理論的に紹介している動画が無料でYoutubeで公開されている。本当に良い時代。


作成者はWorld Brewers Cup 2012 優勝、World Barista Championship2013 準優勝、World Coffee in Good Sprits 2014 優勝という輝かしい実績を持つ業界では知らない人がいない世界のトップ中のトップバリスタ、Matt Perger (マットパージャー)。


その動画の内容を日本の方にも分かるように今回は記事にまとめてみた。この記事を読み終わった頃にはきっとあなたも一流バリスタのエスプレッソ調整方法が身についているはず。


もし今回の内容が難しいと思う方は初心者の方向けに書いた記事があるのでそちらを参考に。

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ステップ1 大事な3つの要素を知る

エスプレッソ調整においてまず知っておかなければならない重要な3つの要素がある。それは、粉量(ドース量)、抽出量、そして抽出時間。


この3つの要素を変えながらターゲットの味に近づくようにエスプレッソ調整をしていくのだが、どの要素から手を付けていけばいいのか分からない人も多いと思う。自分もバリスタになりたての頃は本当にちんぷんかんぷんであったが蓋を開けてみると意外とシンプル。


上の図で表した通り、


① 粉量
② 抽出量
③ 抽出時間


この順番で決めていく。






ステップ2 バスケットサイズを確認する

ポルターフィルターに装着するフィルターバスケットにはいくつかサイズがあり、現在あなたが使っているフィルターバスケットのサイズを知ることが第2のステップになる。


Mattの動画内では20gのバスケットサイズを使って説明しているので、今回の記事でも同じく20gのバスケットを使うことを前提に進めていきたい。





 

ステップ3 粉量を決定する

フィルターバスケットのサイズが確認できたら次やることは、粉量を決定し固定すること







粉量の決定と固定

使用するフィルターバスケットのサイズは前述した通りここでは20gのサイズ。それに合わせて粉量も分かりやすくジャスト20gで固定する。







Step4 抽出量を決定する

粉量(ドース量)が固定できたら次のステップへ。次のステップは適正な抽出量を探り、固定すること。







まずは1:2の比率で抽出

ファーストショットはシンプルに粉量に対して2倍のエスプレッソで抽出してみよう。20gのコーヒー豆を使うのであれば40gの抽出量になる。


ちなみに今回使うケニアのコーヒーは浅煎りのため粉量の2倍より少ない量で抽出してしまうと、液体の濃度が高くなりシャープな酸が際立ちやすかった。







抽出時間はとりあえず気にしない

粉量20gを使い40gで抽出すると結果抽出時間は27秒。とりあえず今の段階では抽出時間は無視してしまってよい。







テイスティングして味を確認

粉量20g、抽出量40g、抽出時間27秒で落としたエスプレッソは酸っぱく、塩っぱい、いわゆる未抽出の状態。そして濃度が高いため、味が詰まっていて強い。このレシピが正解ではないことが分かった。







グラフに落とし込む

一度グラフを使ってこのレシピで抽出した味がどこに位置するのか可視化してみる。縦軸が濃度(TDS)、横軸が収率(コーヒー豆からどのくらいの成分を取り出しているか)のグラフに当てはめてみる。現在の抽出レシピが赤い丸の位置。







グラフの見方を知ろう

黒いラインは抽出量を変えた時に赤い丸が移動することができるレンジである。濃度と収率はトレードオフの関係になっている。つまり抽出量を減らして収率を低くするとと濃度は高くなり、抽出量を増やして収率が高くなると濃度は低くなる。

抽出量の上下で赤い丸は黒いラインを移動する。また黒いライン自体が移動するケースもある。以下で表を使って説明していきたい。







抽出量を増やした場合

それでは一度同じメッシュサイズ(粒度)のまま抽出量を40g→45gまで伸ばしてみる。そうするとコーヒー豆からより多くの成分が抽出され収率は高くなる。同時にお湯を流れる量が多くなるので濃度は低くなる。







抽出量を減らした場合

それでは次に同じメッシュサイズ(粒度)のまま抽出量を40g→35gまで減らしてみる。そうするとコーヒー豆から引き出される成分が少なくなり収率は低くなる。同時にお湯を流れる量が少なくなるので濃度は高くなる。






 

メッシュを細かくした場合

メッシュサイズを変更すれば同じ抽出量のまま濃度と収率を変化させることができる。メッシュを細かくすれば同じ抽出量で濃度と収率が上がる。つまり黒いライン自体が右上に移動する。







メッシュを荒くした場合

メッシュを荒くすれば同じ抽出量のまま濃度と収率が下がる。つまり黒いライン自体が左下に移動する。







もう一度抽出トライ

表の見方が分かったところで、最初の抽出レシピに戻って適正な抽出量を探っていく。ファーストショットでは40gの抽出量で抽出した。上記のレシピだと酸っぱい、塩っぱい、いわゆる未抽出で、味が詰まっていて液体の強度が強く飲みづらいエスプレッソになってしまった。







抽出量を増やしてテイスティング

その問題を解決するために抽出量を40gから50gまで伸ばしてみる。そうすると最初のレシピと比較すると味のバランスが取れ甘さも出てきた。ただ濃度の低下による質感やボディも失われてしまった


これ以上抽出量を増やしてしまうと濃度はさらに失われてしまうだろう。逆に濃度を上げるために抽出量を減らせば収率は下がりまた未抽出傾向の味わいになってしまう。







抽出量を固定する

よってこれ以上、抽出量を変化させることはここではもう必要ないと見て抽出量は50gで固定することに決定。







Step5 最適な抽出時間を探る

粉量20gで決定、抽出量50gで決定、という所まできた。徐々に目標となる味わいのエスプレッソに近づいてきている。後は抽出時間を調整して最終仕上げの段階に入っていく。


味わいは良くなってきたが抽出量が50gになった結果、濃度が犠牲になり濃度が低くなってしまった。濃度は欲しいが収率は下げたくない。収率を下げることなく濃度を上げるにはどうすれば良いか。


その答えはメッシュを細かくすること。






 

メッシュを細かくしてテイスティング

前述した通りメッシュを細かくすれば抽出量は固定したまま濃度と収率を上げることができる。メッシュを前回より細かくしたことで、秒数は30秒から34秒に伸び、軽くなっていたボディに大きな改善が見られた。質感はスムースで滑らか。そして甘さも向上し、明るい心地良い酸が現れた。


このレシピでエスプレッソを抽出しても十分に美味しい。ただよりさらに味に深みや甘さを向上できる余地がありそう。もう少しメッシュを変えて最適な抽出時間を探っていこう。

 






さらにメッシュを細かくしてテイスティング

より細かくすることで抽出時間は34秒から38秒まで伸びた。濃度と収率は前回のショットより高くなり、味わいはよりリッチでより甘さのあるエスプレッソになってくれるはずと予想していたが結果は逆に悪い方向に。ドライな質感にやや酸っぱい印象。そして甘さが低下したのである。

 





何が起きたのか?

上のグラフを見て頂きたい。細かくして秒数が伸びたはずなのに収率と濃度が34秒のときに比べてなぜか低くなっている。果たしてフィルターバスケット内では何が起きていたのか?


原因はメッシュが細かすぎたことにある。メッシュが細かすぎることにより粉の密度が高くなりすぎてしまいお湯の通り道が塞がれ粉一粒一粒から成分を上手く引き出すことができなくなってしまったのである。


これ以上さらに細かくすると濃度と収率はさらに下がっていく。


これをMattは動画内で「収穫逓減の法則(しゅうかくていげんの法則)」と呼んでいる。ある点を過ぎると入力の増加(メッシュを細かくしていくこと)が出力の増加(濃度と収率の上昇)に繋がらなくなってくるのだ。







抽出時間が34秒になる1つ前のレシピに戻る。前述のことからこれ以上メッシュを細かくすると「収穫逓減の法則」によってエスプレッソの味わいは下降線を辿ることが分かった。







抽出時間を固定する

よって34秒で抽出時間を固定することが最適解であると判断。これで粉量、抽出量、抽出時間の3つの要素が決定し、抽出レシピもほぼ決定。


このレシピのままエスプレッソを提供しても良いがまだ改善方法がある。それが以下の2つ。

■ 適切なディストリビューションを行う
■ 適切なタンパーの使用






 

Step5 ディストリビューション

フィルターバスケットを上下左右の4方向から手の平で均等の力で軽くタップし粉を慣らした後にタンピングをすることで同じレシピにも関わらずさらに良い方向に改善された。

濃度と収率は少し上がり、濃厚でフルボディ、甘さのボリュームも向上、そしてケニアの生き生きとした爽やかな酸が出てきた。

適切なディストリビューションをすることによってフィルターバスケット内の粉がフラットになりさらにエスプレッソの味わいが向上した。

手でディストリビューションを行う代わりにディストリビューターというツールも販売されているので、こちらの使用もおすすめ。フィルターバスケット内の粉を誰でも簡単に均一にすることができる。

 

 






Step6 フラットタンパーを使う

最後にタンパーをフラットタンパー(カーブしていないタンパー)に変えタンピングすることでより均一な抽出が実現。濃度と収率はさらに向上し、質感はシロップのような滑らかさ、濃厚でフルーツのような甘さと生き生きとした酸。そしてコンプレックス(複雑)な味わい。これでついにエスプレッソの抽出レシピが完成した。

 

 







最後に

今回は一流バリスタがエスプレッソ調整の際に頭の中で考えていることを紹介した。調整方法が体系的に分かっていただけたと思う。これでエスプレッソのレシピ作りを怖がることなくスムーズに行うことができるだろう。


ただ忘れてはいけないのはテイスティングスキル。これが一番重要である。これが分からなければいくら調整方法が分かっていても、今抽出したエスプレッソの味がどの位置にあって、どの方向に味を持っていけばいいのかが分からないままである。


こればっかりはオンラインだけ身につかないスキルなので、実際にエスプレッソの味を見れるきちんとしたプロに教えてもらうのが一番良いだろう。


今回の記事がバリスタを目指す方、バリスタをやっているけど調整で悩んでいる方の助けになれば幸いである。







 

一流バリスタのエスプレッソ調整方法おさらい

1. フィルターバスケットサイズを知る
2. 粉量(ドース量)を決定し、固定する
3. 抽出量を決定し、固定する
4. メッシュサイズを変え抽出時間を決定し、固定する
5. ディストリビューションを行う(粉を均一に詰める)
6. フラットタンパーを使用する

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